口は脳ではない
ICLR 2026 Workshop · Niimi

口 は、 脳 ではない。

「世界をわかる部品」と「ことばを話す部品」を、わざと別々に作ってつないでみた研究。

脳 = 世界モデル Deep Boltzmann Machine ブランド・価格帯・評価・購買文脈 アダプタ ソフトプロンプト ことばではない 「信念」のベクトル 口 = 言語モデル GPT-2(重みは凍結) The screen is amazing, battery life is perfect… Love the screen!
脳が「何を言うか」を決める DBM は表形式の行動データだけから、市場の構造を教師なしで学ぶ
口は「どう言うか」だけ担当 GPT-2 は一切学習しない。動くのは真ん中のアダプタだけ
実験デザインの工夫

なぜ、あえて小さな GPT-2 なのか

巨大な LLM は、内部にすでに何らかの「世界モデル」を抱えているかもしれない。それでは結果が良くなっても、それが脳のおかげか口のおかげか区別できない。

? 巨大 LLM:脳と口が溶け合っている 外付けの脳 DBM 小さな口 GPT-2 良くなった分 = 脳の手柄

つまり論文全体が「分離という原理そのもの」のアブレーションになっている。

独自性

どこが新しいのか

これまで
この論文
ソフトプロンプト
テキストから直接、端から端まで学習
外部の世界モデルの「信念状態」から作る
世界モデル
時間とともに状態がどう変わるか(RL・JEPA 系)
どの属性の組み合わせが「ありえる」か(共起構造)
DBM
マルチモーダル表現学習に利用
凍結した LLM につなぎ、生成を操る
LLM + 世界モデル
世界モデルは暗黙的(LLM の中に埋もれる)
明示的で、中身を検査できる
発見 ① 生成の質

プロンプトのジレンマを回り道で解く

小さな LLM に文字で情報を伝えようとすると、少なければ言い足りず、多ければ壊れる。ベクトルで渡せばこの板挟みから抜けられる。

ベクトルで渡す(ソフトプロンプト) テキストで渡す(ふつうのプロンプト) 言い足りない パンク ← 情報を減らす  ちょうど良い点がない  情報を増やす →
入力: Price=mid · Brand=Apple · Rating=5 · Topics=[battery, screen, renewed, overall, amazing]
短いプロンプト
I am happy with the quality… one minor complaint is the speaker is too loud and the screen is too small.
× ★5 なのに不満を言い出す
詳しいプロンプト
Product description:
You find a good product with excellent price.
Review:
Review:
× 文脈を溢れて出力が崩壊
BoltzmannGPT
The phone is gorgeous, the screen is amazing… no issues with battery life… if you're looking for a refurbished phone… Love the screen!
✓ 話題・感情・「整備品」まで拾う

定量的にも、DBM を抜いて表データを直接 MLP に通した版や、GPT-2 を丸ごとファインチューニングした版より、正解レビューに近い文章になった。 (全体を学習すると過学習で崩れる。口は凍結したほうが良い)

発見 ② 世界モデルの中身

エネルギーは「ありえなさ」の高さ

DBM は各設定にエネルギーを割り当てる。低い谷ほど「よくある」、高い丘ほど「ありえない」。同じ 「中価格 → エントリー価格」への値下げ を、ブランドごとに試すと――

エネルギー(ありえなさ)→ Apple 上り坂:Apple が安いのは変 Samsung ほぼ平ら:全価格帯にいる マイナー 下り坂:むしろ自然 中価格 エントリー
模式図。地形の形は論文の「中価格→エントリー」介入の向き(増加・ほぼゼロ・減少)を表す。

「安い=おかしい」という単純な偏りではなく、 ブランドと価格の組み合わせとしての“らしさ” を覚えている。

プレミアム → エントリー はどのブランドでも急な上り坂。高級機は構造的に別物、という市場の常識も再現。

学習データでもテストデータでも同じ地形 。約3万パラメータの小さな脳が、丸暗記ではなく一般化できる構造を獲得している。

発見 ③ 介入の因果的な特異性

つまみを回すと、回した分だけ変わる

脳の中の変数を1つだけ書き換えて(クランプして)、口が話す内容の感情を測る。

安くなっても評価が下がるとは限らない(コスパが良ければむしろ上がる)し、Apple → Samsung でトーンは変わらない。 「Apple なら高評価」というブランド偏見が入っていない ことの裏付けにもなる。

発見 ④ 反実仮想の妥当性

作られた★1は、本物の★1とそっくり

人間の★1レビューは、素直にけなすものと、ポジティブな言葉を混ぜる(皮肉・「期待していたのに…」)ものの ふたこぶ 。★5を★1に介入した生成文も、同じふたこぶになった。

論文 Fig. 2 を簡略化した模式図(感情スコアは VADER)。点線は比較用の仮想的な分布。

単に感情を「裏返す」だけでなく、 人間が書く酷評の複雑な感情構造 まで統計的に再現している。

この結果が示すこと

分けることで、手に入るもの

一貫性がスカラー値で見える

エネルギーが「この設定はどれくらいもっともらしいか」を1つの数で示す。LLM 単体ではどれだけ大きくしても得られない検査可能性。

足りないのは口より脳

GPT-2 でも十分に話せた。構造のある領域では、ボトルネックは言語能力ではなく世界の理解にあるのかもしれない。

部品を差し替えられる

口を別の LLM に替えても、脳を替えても、再学習はアダプタだけ。同じ脳から画像や分類へ出力を広げることも原理的に可能。

まだできていないこと
時間変化ではなく共起構造のみ Amazon スマートフォンの1領域のみ 感情評価は辞書ベースの VADER DBM 以外(VAE 等)の検討

流暢に 話す ことと、世界を わかる ことは別の仕事。
別々に作れば、小さな口でも正しく、操作可能に話せる。